対象となる主な疾患
①不眠症
不眠症は日本人の5人に1人程度が悩んでいると言われ、加齢に伴って増える傾向と、女性にやや多いという特徴があります。
不眠症の種類としては
- 入眠困難(なかなか寝付けない)
- 中途覚醒(途中で何度も目が覚める)
- 早朝覚醒(起きようと時刻より早く目覚めて眠れない)
- 熟眠障害(十分な時間寝ても寝た気がしない)
の4つに分類され、それぞれが重なり合っていることもあります。
不眠の原因は図に示すようにいくつかの要因が相互に影響しあって生じることが多く、どこに原因があるかを確認しながら治療する必要があります。
治療には薬物療法と非薬物療法があります。睡眠薬による治療は即効性がありますが自然な睡眠ではないため、睡眠の質自体を落としてしまう場合があり、また副作用でふらつきや薬が抜け切らないことで日中に眠気が生じることがあります。更に依存性のある薬物も多く、一度始めると中断が難しくなることもあります。非薬物療法としては不眠症に対する認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia:CBT-I)を中心に行います。
②睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に10秒以上呼吸がとまり、これが1時間に5回以上、または睡眠中に30回以上ある状態のことをいいます。なんらかの理由で気道が閉塞し無呼吸状態となることや、頻度はまれですが脳から呼吸するための指令が伝わりにくくなっていることなどが原因と言われています。気道が閉塞するのは、肥満や下あごの未発達や扁桃腺肥大などが原因としてあげられます。症状としては、いびきや頭痛、朝起床時の吐き気、日中の過度な眠気などがあります。特に日中の突然の眠気では、交通事故などを起こす危険性もあり、早急な治療が必要となります。
治療は、睡眠中に息が止まりそうになった際に空気を送り込んで気道を広げる機械をつけて寝る方法(CPAP)や、下あごを前方に少しずらすためのマウスピースを用いて気道を確保する方法などがあります。
CPAP(鼻にマスクをつけ加圧した空気を送りこんで気道を広げる方法)は特に効果的です。CPAPはレンタルすることができますのでご相談ください。睡眠時無呼吸症候群の原因が扁桃腺肥大や慢性の鼻閉症状、アレルギー性鼻炎などの耳鼻咽喉科の疾患の場合は耳鼻咽喉科での診断や治療が必要な場合もあります。
睡眠時無呼吸症候群ではいびきが重要なサインとなります。肥満などが原因で気道が狭まっているために呼吸の際に抵抗が大きくなりいびきとなって現れます。特に仰向けに寝ると舌が下がり、気道をさらに狭くします。横向きに寝るなど寝る姿勢にも注意が必要です。
睡眠時無呼吸症候群では、大きないびきの後に、一度いびきがとまり、再び大きないびきをかき始めるといった特徴があります。無呼吸状態が続くと、酸素が身体に入らずに、心臓や脳はもちろん身体中に悪影響が及びます。その結果、糖尿病・心筋梗塞・脳梗塞や脳内出血のリスクが高まります。
睡眠時無呼吸症候群の原因で最も多いのは肥満です。日ごろから運動や規則正しい食生活を心掛けてください。
③睡眠リズム障害(極端な夜更かし朝寝坊)
1日は24時間なのは当たり前ですが、人の体内時計の周期はそれより少し長く、約25時間程度で一周するようにできています。ではこの1時間の差をどこで埋め合わせしているかというと「朝の光刺激」です。大まかに言いますと、朝に目から強い光刺激が入った時点で体内時計がリセットされて「睡眠→覚醒」と切り替わり、朝の光刺激から約14~16時間後に自然な眠気がくるようにできています。この一連の体内時計のリズムが何らかの理由で崩れると睡眠リズム障害と呼ばれる状態になります。
具体的には、
- 睡眠相後退症候群(DSPS):極端な夜更かし朝寝坊
- 睡眠相前進症候群(ASPS):極端な早寝早起き
- 非24時間型リズム障害(Non-24):1日約25時間の睡眠リズムになる
の3つのいずれかの形をとることが多いです。
DSPSは夜間の外出や深夜TV、スマートフォン、パソコンなどの強い光を発するメディアとの接触機会が増える思春期~青年期に多くみられます。夜更かしから朝起きるのが遅くなり、その結果夜に眠気が来なくなり夜更かし朝寝坊がエスカレートするパターンです。
ASPSは高齢者に多いと考えられます。仕事の引退や体力的な問題から夜間することがなく早く寝てしまい、太陽が昇る前から起きて活動を始めてしまうことで翌晩ますます早い時間に眠たくなるといったパターンです。
Non-24は研究者や引きこもりなど、光刺激や社会的刺激のメリハリがない単調な環境で長時間過ごす方に多くみられるパターンです。刺激が少ないために体内時計をリセットするタイミングが無く、人間の本来持っている1日25時間の体内時計を刻むようになり「毎日1時間ずつ寝る時間と起きる時間が後ろにずれていく」という特徴的なパターンを示します。
治療に際しては、まずは睡眠リズムのパターンを正確に把握した上で、必要に応じて生活指導や薬物療法、強い光を人工的に発する機械を用いて体内時計を強制的に戻す治療(高照度光療法)を組み合わせて行います。あまりにもリズムの乱れが強い場合には生活建て直しのために2週間~1ヶ月ほどの短期入院を行う場合もあります。
④過眠症(ナルコレプシー、特発性過眠症、周期性過眠症)
過眠症は不眠症とは逆に寝すぎてしまう病気です。過眠症は大きく分けて特発性過眠症とナルコレプシーがあげられ、そのほかに周期性過眠症というものもあります。特発性過眠症とナルコレプシーはどちらも日中の眠気を主訴にしますが、それぞれ違いがありますのでここでは3つの視点で2つの疾患を区別していきたいと思います。
- 日中の睡眠時間
特発性過眠症では長時間(数時間程度)であるのに対して、ナルコレプシーは短時間(数十分程度)を繰り返すと言われています。 - 日中の睡眠タイプ
特発性過眠症ではノンレム睡眠が主体であるのに対して、ナルコレプシーはレム睡眠が主体と言われています。 - 夜の睡眠
特発性過眠症では夜もぐっすり眠れるのに対して、ナルコレプシーは眠りが浅く何度も起きると言われています。
また、ナルコレプシーは寝入りばなの幻覚や金縛りがみられやすいことも特徴です。しかしなかなか見分けがつかない場合も多く、確定診断には専門機関で1泊2日で行う終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)と反復睡眠潜時検査(MSLT)が必要となります。当院には入院設備はありませんが、連携医療機関と連携し迅速かつ正確な検査を行わせていただきます。
周期性過眠症(Kline-Levine症候群)は、食事と排泄以外ほとんど一日中眠り続ける過眠期が数日~数週間続き、過眠期以外の期間は全く無症状となる病気です。過眠期には食欲の異常亢進がみられやすいといわれています。思春期での発症が多く男性に多いのですが、非常に稀な疾患であり、これまで全世界でも200例程度しか報告されていません。本疾患に特徴的な睡眠検査のパターンがあるわけではなく診断に必須ではないのですが、他の睡眠障害による過眠を除外する目的で検査を行うことはあります。
ナルコレプシーや周期性過眠症を呈しやすいタイプの白血球の血液型(HLAといいます)もいくつか同定されていますので、診断に困る際には補助的に血液検査を行うことも有用です。
⑤むずむず脚症候群(レストレスレッグズ症候群)
レストレス・レッグス症候群(むずむず脚症候群)の有病率は2%~5%と言われ、日本でも200万人ぐらいの方々がこの病気で生活に支障を来しているのではないかと言われております。
レストレス・レッグス症候群(むずむず脚症候群)は、ふくらはぎや太ももにむずむず・かゆみ、だるさやしびれなどのなんともいえない不快感が生じる病気です。
虫が身体をはっている感じや電気が流れる感じなどという人もいます。
そのため、この不快感から脚を動かしたい衝動にかられ(脚を動かすと不快感が軽減するため)、眠れなくなったりする睡眠障害です。
症状は、夕方から夜にかけて出現し、じっとしている時に悪化します。
以上のような症状が認められれば、レストレス・レッグス症候群である可能性があります。
性差があり、女性の方が男性よりも多く、高齢者や妊娠中の女性が特になりやすいと言われています。
原因はまだきちんとわかっていませんが、鉄分の欠如やドーパミンの機能低下などが関係しているとされています。
一般的には薬物療法としてドーパミンの機能を高める薬や鉄剤の補充、けいれん止めの薬(てんかんの薬)などが治療に用いられますが、薬の量は最小限に抑えながら薬物療法以外の方法を組み合わせる方がより長期的に症状を抑えられると考えられます。また、似たような症状をきたす全く別の病気が隠れている場合もありますので、気になる症状がある際には一度治療経験が豊富な睡眠専門医への相談をお勧めいたします。
⑥睡眠時随伴症(寝ぼけ、夢遊病、夜驚症、レム睡眠行動障害)
睡眠随伴症では、レム睡眠行動障害と睡眠時遊行症(いわゆる夢遊病)などが有名です。どちらも寝ながらにして寝ぼけたような行動をとることが問題ですが、ここでも3つの視点で2つの疾患を区別したいと思います。
- 刺激による覚醒の違い
レム睡眠行動障害は刺激により容易に覚醒しますが、睡眠時遊行症(夢遊病)は刺激でも覚醒は困難でむしろ興奮することもあります。 - 怪我のしやすさの違い
睡眠時の外傷ですが、レム睡眠行動障害では素早く暴力的な動きが多いため自分や周りが怪我をしやすいのに対し、睡眠時遊行症(夢遊病)ではゆっくり歩き回ったりトイレに行ったりといった穏やかな動きが多いため刺激をしない限りは怪我はしにくいと言われています。 - 目の開き方の違い
レム睡眠行動障害では目が閉じた状態ではっきりとした寝言を言うことが多いですが、睡眠時遊行症(夢遊病)は目が開いた状態であるもののはっきりしない言葉を呟くような寝言が多いと言われています。
似たような症状のため見た目だけでは区別がつきにくいことも多いですが、睡眠中の脳や体の活動を記録する検査を行うことで明確に区別する事も可能です。どちらのタイプかによって治療方法も違いますので、ご心配の方は一度ご相談いただければと思います。
⑦睡眠関連摂食障害(SRED)
睡眠関連摂食障害(Sleep-Related-Eating-Disorder:SRED)は夜間一度寝付いた後、睡眠状態のままに動き出し無意識のうちに何かを食べてしまう病気です。
摂食行動の記憶はほとんどないため、家族と暮らしている方の場合は「夜中に寝ぼけた感じで一人で料理して食べていた」と家族が気付くケースが多く、一人暮らしの方の場合は「朝起きたら知らないお菓子の空袋がある」、「日中いくらダイエットしていても痩せない(夜間に知らないうちに食べているため)」といった訴えをされる方が多いです。
重症化した例では食べてはいけないものを食べる(冷凍食品をそのまま食べる、洗剤を飲み物と勘違いする、ペットフードを食べる等)、寝ぼけたままで火を使って調理して火事を起こす、といった危険な行動に及ぶこともあるため注意が必要です。
本人には全く記憶がないわけですから、いくら周囲から怒られても本人としてはどうしようものなく、無力感から抑うつ状態に陥ることもみられます。特に若い女性で抗不安薬や睡眠薬などを使用中の方に発症するケースが多く、そういった例では減薬などが必要です。
しかし、SREDと似たような症状をきたす精神疾患(解離性障害、夜間せん妄、摂食障害など)もあり、安易な減薬によって元々の不眠症や精神疾患が悪化するリスクもあります。
睡眠障害のみならず精神疾患の知識全般に精通した専門家の下で治療する事が大切です。
⑧悪夢障害
起きたときにはっきりと覚えているような夢はレム睡眠中にみるとされており、健常な成人でも1晩に4,5回ほどはみています。夢の内容が楽しいものならいいのですが、悪夢障害では恐怖感、怒り、身体的な危機を感じるような不快な夢が繰り返されてしまいます。何度も似たような悪夢を繰り返すことで眠ること自体に恐怖感を抱くようになると不眠となり、疲れがとれないために日中の活動性も大きく落とすことにも繋がります。睡眠から夢をみる部分だけ消すことは不可能ですが、少し時間はかかるものの悪夢をみにくくする治療は可能ですので、お困りの方はご相談ください。
⑨頭内爆発音症候群
特に夜のまどろんでいるような時に突然頭の中で激しい爆発音が聞こえる病気です。
あまりにも大きい音のために「脳卒中を起こしたのでは?」といった恐怖感を伴う事も多いですが、脳卒中などと違って痛みをあまり伴わないことが特徴です。
基本的には良性の疾患ですが、ストレスや過労があると発作の頻度が増えるとの報告もあり、あまりに頻繁となると「また起きるのでは?」といった不安恐怖感が強まり睡眠の質が悪くなる可能性もあります。
一般的にあまり知られていない病気であることと、てんかん発作や幻聴など神経疾患や精神疾患との鑑別も必要ですので、気になる際には治療経験のある睡眠専門医への受診をお勧めします。
⑩歯ぎしり
一般的には歯ぎしりはギリギリとうるさくて周りが困る病気という認識だと思いますが、逆に周囲は困らないけど睡眠の質の低下、頭痛、顎関節症、開口障害をきたして生活に支障がでるなど本人が困るタイプのものもあります。
歯ぎしりは大きく分けて
- ぎりぎりすりつぶすような音の「グラインディング」タイプ
- ぎゅーっと噛み締める「クレンチング」タイプ
- カチカチ軽い音を立てる「タッピング」タイプ
の3種類に分けられますが、それぞれのタイプによって原因や治療方法が異なります。
音がでないタイプでも専門家による身体診察や睡眠検査で確認できる場合も多いですので、特に朝方に強い頭痛や顎の違和感などの身体症状でお困りの際にはご相談ください。
⑪睡眠関連てんかん
てんかんではある特定の刺激をきっかけに発作が起きやすくなることが知られています。有名なところでは、強くて点滅するような光刺激を受けた時、激しく呼吸をした時などが有名ですが、他にも睡眠に関連して発作が起きることもあります。特に寝入りばなと起床時に多くみられます。
明らかな全身性のけいれんなどがあればわかりやすいのですが、単に意識がなかなかはっきりしないだけの発作の場合は、「朝、家族がいくら起こしても全然起きず本人も覚えていない。眠りが深いだけ?」と誤解され見逃されている事もあります。ただ、睡眠検査の際には寝入る前から完全に起きるまでの間、常に脳波を測定しますので、まず見落とすことはありません。
少し専門的な検査が必要となってきますので、気になる症状がある方は検査内容も含めて一度ご相談いただければと思います。